事業概要(草案)

日立市地域産業創造賞

第11回日立市地域産業創造賞の募集があり、菊水食品は産業創造部門にエントリーしました。
書類審査、ヒアリングがあり、選考委員会で選ばれプレゼンテーションを行いました。
結果、事業内容が認められ産業創造部門で一等賞をいただく事が出来ました。
この募集内容は、産業分野の中小企業が実施する新製品や新技術開発、営業方法の開発、雇用拡大などを対象とし当該事業活動により業績の進展や雇用拡大など地域産業の活性化や創造に実績を有し貢献したもので、完了した事業の成果を評価されるものでした。

事業名「納豆製造における独創的でこだわりのある新商品開発と販路開拓事業」

1.事業の概要

≪背景≫

弊社は、創業昭和23年以来、地元小売店舗等を主要な販売先として、納豆食品の製造・卸売を営んできた。
しかし、大量消費時代を背景に、低価格で大量供給が可能な大手競合事業者による市場の独占が進行したことから、既存販路が圧迫・縮小され、売上が低迷してきた。特に、たび重なる大型スーパーマーケットの市内進出に伴い、取引先の中規模スーパーが減少するなど、販路体系が大きく変化したため、大幅な受注減に陥った。

このため、大手の納豆製造事業者では、容易に実現できない中小企業ならではの特性を活かした事業展開を早急に進める必要があった。また、大型店の品揃えの一つに採用されることは、売上の安定化を図るために不可欠であることから、魅力ある商品を創出し、品質・安全性などの商品力を向上させる必要があった。

本事業は、多様化する消費者のニーズ、インターネットの普及など変貌する市場形成要因に迅速に対応すべく、

  1. 他社製品には類のない新規性を求め且つ本物志向の消費者層をターゲットに
  2. 地域内に限定しない全国の需要を対象として

既存商品の改良を含む新たな商品の開発と販路の開拓に着手したものである。

≪商品開発≫

新たな商品開発に関しては、「独創的でこだわりの納豆」を基本コンセプトに、消費者ニーズの高い次の3つ観点から納豆の開発に取り組み、他社には真似のできない美味しくて安心・安全な納豆の商品化を進めてきた。
高級志向に対応した商品として『菊水ゴールド納豆』の開発に着手、試作研究期間3年を経て、平成元年から販売を開始する。本事業においてさらに製造方法の研究を重ね、平成15年大幅な品質向上を達成、現行商品として販売を開始する。
健康志向に対応した商品として『海洋ミネラル納豆』の開発に着手、試作研究期間約1年を経て、平成16年から本格販売を開始する。さらに改良を加え、『海洋ミネラル納豆ミニ2』を開発、平成17年から本格販売を開始する。
環境問題に対応した商品として『頑固一徹』の開発に着手、試作研究期間約1年を経て、平成17年から本格販売を開始する。

≪販路開拓≫

志向型商品としての特性に応じた新たな需要の掘起しを図るべく、既存の販売ルートでは拡大できなかった地域や年齢層を取り込むため、次の販路開拓に取り組み、その拡大に努めた。
本物志向が多いインターネット消費者に向け、ニーズに対応した詳細な情報を発信するため、既存のホームページを増設し、ネット販売の強化に取り組んだ。現在、3つのホームページを開設運営し、3つのリンクページを有している。また、ブログも「納豆屋社長日記」など3つを運営している。
県内各地に販売店舗を有する高品質志向型のスーパーに対し、新商品の売込商談を積極的に展開するとともに付加価値の創出に努めた。品質や衛生面での評価を得、新たな販売ルートの確保に成功する。

実施事業と既存事業との相違点と新規性

1.製造工程における相違点

納豆の品質は、味・色・形・香り・糸引きの五大要素すべてが商品としてバランスよく整った完成されたものにならなければならない。その品質を左右するのが、製造工程における納豆菌の醗酵であり、原材料である大豆の保管状態や乾燥状態、また製造時の気温や湿度の変化によって醗酵が異なり、納豆の品質の良し悪しが決定付られる。
したがって、商品としての同一性を維持し、高い品質を追求するためには、醗酵の状態を定期的に観察・確認しながら適切な措置対応が必要であり、オートメーション化された機械に頼らない経験と職人としての勘による製造工程管理が不可欠である。
しかし、大手製造事業者においては、価格競争と生産量の拡大に伴う人的コスト削減のため、この納豆製造工程にオートメーション化や電子制御システムを導入し、低価格維持を優先した納豆製造に傾倒しているのが現状である。
幣社は、本事業において、住居に工場を併設しているという強みを活かし、随時、人による製造工程管理を徹底することにより、微妙な醗酵の状態を見極め、高い水準で納豆品質の均一化を実現するという独自の醗酵管理技能を確立した。これにより、他社商品では真似のできない味・色・形・香り・糸引きの五大要素すべてにおいて最優秀と評価される納豆を創出することに成功した。
さらに、この納豆製造方法へのこだわりが、より美味しい商品を求めたいという消費者から支持されることになり、高品質納豆としての評価を獲得することができた。

2.商品開発における新規性

本事業の商品開発に当たっては、美味しくしかも安心・安全と言われる品質にこだわり、他社商品には無い独創的な発想で時代を先取りした商品を開発することに努めてきた。今回開発した3商品は、これまで他社では製造事例を見ない全く新しいタイプの納豆商品であり、その新規性が大きな話題となり、TV、ラジオ、新聞、雑誌など、多くのメディアで取り上げられることになった。

菊水ゴールド納豆

金箔入りの納豆を考案。金塊棒に似せたインパクトのあるパッケージで高級感を演出するとともに、原料である大豆についても、厳選された国産大豆「北海道産大豆(すずまる)」を100%使用し、新たな製造方法により品質向上を達成。機械に頼らず、古来の手作業で1本1本丹精を込めて製造する『こだわりの逸品』として開発した。

海洋ミネラル納豆

安心・安全で身体に優しい納豆を考案。茨城県大洗沖の深さ200mから採取した海洋深層水を精製して作られた海洋ミネラル「MCM(身体内のミネラル成分とほぼ同等)」を使用した、業界初の健康志向商品として開発。原料である大豆についても、厳選された国産大豆「北海道産大豆(すずまる)」を100%使用した。新たな製造方法(ミネラルと納豆菌の適正配合率を確立)による品質向上(旨み成分3%~5%UP)を図っているため、美味しさと健康を両立させた商品となった。
また、タレを使用しないでも食することができる新たな商品スタイルを提案し、納豆そのものの味を楽しめる商品とした。

頑固一徹納豆

日立市の環境都市宣言及び、愛知県名古屋市の市民グループ(ブログミーツカンパニー)の要望を受け、納豆づくりを通して環境問題に貢献したいとの想いから、発砲スチロール、プラスティック、ビニールなどの原油を使用しない商品『エコ納豆』を考案。日本古来の包材「経木(きょうぎ)」に着目し、丈夫で衛生的な紙に包むことで、容器、包装紙とも可燃(燃える)ゴミとして処理できる環境にやさしいエコロジー商品として開発した。

  • 容器:発泡材(PSP)・・・経木
  • 包装紙:ビニール(PE)・・・紙
  • タレ・からし:ビニール(PE)・・・添付しない

事業実施のポイントとして事業実施上の問題点とその解決策など

事業実施のポイント

1.品質向上等における問題解決

原材料の安定確保
【大豆】

農産物における貿易自由化の進展により、多くの納豆商品が安価な輸入大豆を使用し、商品の低価格化が進展してきた。しかし、輸入食品の農薬残留問題等の発生により、国産大豆への需要が高まり、価格が3~4倍へと上昇した。本事業は、日本食文化の一つである納豆の味にこだわることをテーマとしているため、安全でかつ日本人の味覚に合った国産大豆の安定確保が重要な課題であった。
そのため、インターネットを活用し、各産地の収穫状況をはじめ国内大豆市場に関して多くの情報収集を行うとともに、仲買業者とのネットワークを強化するなど、良質な国産大豆を可能な限り安価で購入できるルートの構築を行ってきた。

【金箔】

菊水ゴールド納豆には金箔を使用するが、金取引市場は相場変動が著しく、日常の加工食品に使用するには、より安定した価格での確保が大きな課題であった。このため、毎年、北陸地方にある金卸業者や金箔製造事業者を訪問、直接交渉により使用条件に合ったものを探し出し、低価格での安定確保に努めている。

製造方法の確立

商品一つ一つについて高水準の品質を実現するためには、納豆菌の醗酵状態の見極めを修得することが最も重要な課題であった。茨城県工業技術センターからの技術指導を仰ぐとともに、試行錯誤を繰り返しながら、高品質納豆を製造するための“見極めのコツと適切な措置対応のノウハウ(醗酵管理技能)”を確立した。

食品安全衛生の徹底

食品加工産業における商品安全性の確保は極めて大きな課題であり、日常の衛生管理の徹底が求められている。弊社は、素材の安全性、作業場や作業員に係る衛生管理はもとより、製造過程の作業ごとに関係機器の清掃を実施することで雑菌の完全排除に努めている。
この結果、本件事業の開始以降、商品に対する消費者からのクレームは発生していない。

2.販路の開拓における対応

イベント参加によるPR販売

新商品の開発及び販売促進を戦略的に展開するに当たっては、いかに消費者の反応を見極め、事業へ反映していくかが大きな課題であると言える。弊社商品の受注先のうち60%以上は、店舗販売が占めているという状況にあり、インターネットによる通信販売件数が年々増加傾向にあるが、地域に根ざした事業展開を基盤とすることが重要であるということは変わっていない。
このような観点から、顔が見える場所での直接販売において、消費者とのコミュニケーション構築を目指し、早くから市内イベント等における出展販売に参加することで実績を積み重ねてきた。また、地域イメージ向上にもつながる地域外イベントに関しても積極的に出展し、日立の納豆として普及促進に努め、併せて、商品開発や販路の拡大の一助としてきた。

新商品に係る付加価値の創出

集客力のある大型スーパーマーケットからの受注を確保するためには、品質・安全性などの商品力向上とあわせ、売れる商品としての付加価値の創出が課題であった。
このため、納豆製造工程の1つである、醗酵を深夜まで管理し、品質の安定を図っている。TV、ラジオ、新聞、雑誌など、多くのメディアへの積極的な対応を図るとともに、全国納豆鑑評会への出品を精力的に実施してきた。
開発した商品に関して、それぞれ高い評価を獲得することができ、販路の拡大に結びつけることができた。

波及効果調査として市民生活や地域産業に及ぼす効果など

市民生活や地域産業に及ぼす効果

1.受注拡大効果

「菊水ゴールド納豆」第9回全国納豆鑑評会優秀賞に続く、「海洋ミネラル納豆ミニ2」第13回全国納豆鑑評会農林大臣賞「海洋ミネラル納豆ミニ2」と、弊社の納豆製造技術が高い評価を受けることになり、これまで取引が無かった大手スーパー等からの受注が大幅に拡大した。
特に、県内、有名百貨店の贈答商品として採用されるなど、パッケージ商品としての新たな販売方法についても販路が拡大した。
これら、受注増の背景には、弊社商品を買い求めようとする消費者からの強いニーズがあり、一部の店舗においては品切れ状態になるなど、小売店舗における売り上げ増につながっていることが推察される。

2.市民生活等への影響

創業60年の営業実績とノウハウを活かしながら、国産大豆の使用、徹底した製造管理及びエコロジカル商品の提案など、安全・安心にこだわった人や環境にやさしい食品を提供するとともに、地域内イベントへの参加出展及び商品の無償提供など、消費者である市民生活に配慮した事業展開や産業振興のための意識啓発を進めてきた。
今後は、納豆を使用した調理方法を研究・考案し、市民の健康的食生活向上に関しても積極的な商品提案を推進したい。

3.地域イメージの向上

日立市は、製造業を基幹産業として発展してきた都市であり、ものづくりに対する探究心や妥協しない努力など、こだわりの精神が地域のイメージとして定着している。この精神は、幣社の納豆づくりにも共通するものであり、地域産業の発展を支えてきた大きな活力とも言える。
今回、弊社の商品が第13回全国納豆鑑評会において農林大臣賞を獲得したことは、このものづくりに対するこだわりが高く評価された結果であり、「ものづくりのまち日立市」のイメージ向上に大きく貢献したものと判断される。
また、TV出演をはじめとするメディアでのPRや取材による情報発信は、「日立の納豆」を全国に広げることになり、知名度向上に大きく貢献したと言える。

4.関連産業への波及効果

日立市における食品加工業分野は、大量消費の時代を背景とした大手企業間の価格競争の影響により、中小企業や個人事業者の経営が低迷するとともに、経営者の高齢化、後継者不足などの問題を抱えている。
こうした中、弊社が進めてきた「独創的でこだわりのある」商品づくりは、一つの取組事例として、地域産業の発展に対し影響を及ぼすことを期待するものである。
現在弊社では、地元産大豆を使用した新商品開発の検討を進めており、JA茨城ひたちと連携し、栽培農家との需給体制を構築することで、生産・加工・販売までの流通過程に係るトレーサビリティを高め、より安全・安心な商品を提供していくことを目指している。
さらに、茨城県農業試験場では、納豆に適した大豆の品種改良を数年前から進めており、この品種改良が完成すれば、農家の作付面積増・生産拡大が促進されることとなり、新種の地元産大豆による高品質納豆の開発が可能となる。地元産の素材にこだわった商品開発を目指し、農業を巻き込んだ事業展開を推進することにより、地域産業の活性化へと結び付けていきたいと考えている。